本ガイドは、IT未経験の発注側(営業・企画など)が、要件定義を「ムダなく、揉めずに」進めるための実務手順をまとめたものです。専門用語を避け、準備→合意→検証の流れで説明します。読み手がすぐ使えるよう、チェック欄と記入例も付けています。
目的を言語化する(仕様の前に)
- なぜ作るのかを一文で書きます。例:「見込み客の追客を自動化し、月次成約率を+3ptする」。
- 成功条件を数値で添えます(期間・範囲・例外)。例:「3ヶ月以内に営業10名で運用」「既存SFAの範囲に限定」。
- 目的に合わない要望は一旦保留。根拠のない“念のため機能”は後で検討します。
関係者と権限を確定する
- 意思決定者/レビュー参加者/現場ヒアリング対象を表にし、欠員を埋めます。
- 承認の段取り(誰がいつ何にOKを出すか)を先に合意します。
- 「後出しの口出し」を減らす仕組み。議事録は承認期限つきで回覧します。
現状業務を見える化する
- 部門横断で“事実”を集め、事実(現状)と要望(理想)を分けて記録。
- 例:事実「営業が二重入力」→ 要望「自動連携」→ 要件候補「SFAとMAの双方向同期」。
- 業務フロー図は簡易でよく、更新履歴を残します。定量データ(件数・頻度・所要時間)も添えます。
非機能要件を穴埋めする
- 性能(レスポンス)、可用性(稼働時間・復旧)、セキュリティ(権限・監査)、法令・運用体制を最低限決めます。
- 例:「主要画面は3秒以内」「障害時は30分以内に連絡」「個人情報の閲覧は権限ロールで制限」。
- 非機能は後からの修正コストが大きいため、早期に明文化します。監査ログやバックアップ手順も範囲に含めます。
合意の作り方=説明+了承
- 文書配布だけでは合意になりません。レビュー会を設定し、観点(目的適合・影響範囲・運用実現性・費用)で確認。
- 変更管理のルール(提出→影響評価→承認→追跡)を先に決め、履歴を残します。
- 判断保留は期限と追加情報の条件を明記します。
不確実な点は軽い検証で詰める
- モックやPoCで“見て触って”判断します。期間・評価軸(やる/やらないの条件)を明記。
- すべてを前倒しで決め切らず、仮決め→短期検証→確定を回します。検証は1〜2週間単位で小さく区切ります。
最低限そろえる成果物(テンプレ)
- 目的と成功条件(1枚)
- 関係者一覧と承認プロセス(責任・権限・期限)
- 現状業務の要点図と課題リスト(定量つき)
- 機能要件一覧/非機能要件の最小セット(数値基準を明記)
- 変更管理ルールとレビュー記録(版管理)
着手前チェックリスト
- 目的は数値で書けているか
- 関係者と権限が明示されているか
- 非機能の空欄がないか
- レビュー会と承認手順が決まっているか
- 検証(モック/PoC)の枠が確保されているか
要件定義は「ITの専門知識」を競う場ではなく、後戻りコストを抑える合意形成の仕組みです。本ガイドを土台に、合意の作り方と検証の段取りを先に整えれば、開発は驚くほどスムーズになります。迷ったら、目的・関係者・非機能・検証の4点に立ち返ってください。